こたなよりかなたまで

末期ガンに侵された余命数ヶ月の主人公が、薬の副作用で血反吐吐きながら周囲を欺きつつ日常を送る物語。
多少ファンタジー分は入っているものの、奇跡が起こったりはしないので、原則として最終的に主人公は。
意図的に最期をぼかしているというか描かないようにしてるみたいだけどさ。


スタッフロールを見て初めて気づいたけれど、原画はしゃあだったのね。
そう言われてみればなるほど、確かにしゃあだ。
割と好きな絵師なのに、絵を見て気づけなかったとは不覚。
物語自体短いというのもあるんだろうけど、これでCGの少なさにも納得。
すごい遅筆という印象があるからねえ。


主人公。
好みが分かれそうなタイプだけれど、個人的には好印象だった。
行動の一つ一つにちゃんと明確な意思や理由があって、そのどれもが納得できる。
個人的にはそれは違うだろと思う行動もあったけれど、この主人公ならそうするだろうな、とも思えた辺り、しっかりとキャラ付けされていたんだなあと今になって理解。
庭先での九重とのシーンで、「このライターは大物だ」と思った記憶が。
調べてみたら、これがergとしてはデビュー作みたいね。
で、遥かに麗し〜やら何やら、その後に手がけた作品もいい評価ばかり聞こえてくるものが目白押し。
特にキラークイーンなんかは当時「同人でこんなに評価高い作品は珍しいな」と疑問に思ったものだけれど、うん、納得。


クリス。
主人公の現状を知った上で、共に付き添う立ち位置。
主人公との言外の意味を汲み取り合った会話は、すごく和んだ。
一見我侭横暴な立ち振る舞いに見えても、やはりそれは明確な意思や理由があってのことで。
いいなあ、こういう雰囲気。
ED「こなたよりかなたまで」は、いまいち分からなかった。
主人公はどうしようとしていたんだろうか。
アングル的に紐無しバンジーかと思ったけれど、そんなことはしないだろうし。
「あと数秒で天に召すぜ」の抽象的表現なんだろうか。
ED「あるいは、こなたよりかなたまで」は、まあ、2周目以降限定というロックがかかっていて然るべき内容だった。
1周目の時点で、指輪他諸々の伏線から容易に想像できたけれども、まあ1つぐらいこういうのがあってもいいよね。
ともすれば蛇足とも取られかねないファンタジー分を、最大限に活用。
まあ、他のルート(共通ルート含む)でもクリスという存在自体が大きく物語に関わっているので、このED以外に目を向けても蛇足ということは絶対にないんだけどさ。


佳苗。
主人公の現状を知らず、振り回される立ち位置。
人によってはウザイと思われてしまいそうな気がするけれど、この手の話でこういうポジションのキャラは必須だよね。
個人的には好き。
というか、このゲームに嫌いなキャラなんていない。
温室のシーンでの主人公の葛藤は、ぐっと来るものがあった。
後は舞踏会か。
あそこでああ出るとは思わなかった。
だからこそ、ライターに一層惚れ込んだんだけれども。
ED「このすばらしき世界」は、まあ、なんというか、ふつーでしたな。
佳苗シナリオは真実を打ち明けるまでの葛藤がミソなので、打ち明けた後はそりゃなるようにならあね。
あのbefore afterは、Nice boat.の11話辺りで言葉様の目に光が戻った時のようなものを感じたけれど、Nice boat.は1話と最終話しか見てないからよくわからないんだ(じゃあ引き合いに出すな)(えー)


いずみ&優。
いわゆる病院組。
このゲームは意図的に泣きを狙ったようなあざとい演出・展開はなく、何気ない日常のワンシーンでホロリとさせるようなことが多いのだけれど、そういうのが一番多かったルートのような気がする。
じいさんナイス。
ED「ゲームの達人」。
主人公が健常者ならば「1万人に1人の確率の適合者でーー」とかいう流れになるんだろうけど、転移しまくってちゃあ仕方がない。
このシナリオは、回想において優が立ち直るまでの話がメインだろうから、佳苗シナリオと同じようにあまり未来については言及されてなかったような気がする。


九重。
シナリオ上必須のポジションではなく、むしろいなくても物語が成り立つような、サブキャラ的な感じだったような気がする。
九重の存在により、ファンタジー分が多分に強くなっている感じもするし。
で、立ち位置としては「魔物を討つもの」。
うん、まあ、なんというか、あのその。
ここまで聞くと要らない子のような気がしてくるが、そんなことはなく、ED「ラストダンスを私に」も含めてよかった。
特に、ED「あるいは、こなたよりかなたまで」以外では唯一未来について(主人公はお亡くなりになられるから九重の未来だけど)触れられたEDだったと思うから、その重要性が際立つ。


音楽は、ギャの人も言っていたけれど、OPテーマがよかった。
KOTOKOさまさま。
何故カラオケに入っておらん。
OPEDのフルバージョン含めてWMAで入っていたので、現在mp3プレイヤーに入れて聞いているところ。
世界観の割に、それほど暗い曲はなかったような気がする。
主人公の性格的なものもあるんだろうけど。


システム周りに関しては、ちょっと。
なんか全体的に重かった。
特にスキップの遅さは致命的で、選択肢が少ないこともあるけれど、次の選択肢までスキップしている間にスマブラのシングルモードをクリアできるほどの鈍重さ。
物語が短かったからまだよかったけれど、これがCLANNAD並の長さだったらと思うと、恐ろしくてたまらない。
あと、アクティブモードにしてないと動かないのも×。
「スキップしている間にニュースサイトでも見て……いようとしたら動いてくれNEE」は誰もが引っかかる罠。
だと思う。
スキップが超っ速だったらそれほど問題ではないのだろうけど、その真逆だからなんともはや。
そもそも、「非アクティブだと動作しない」という仕様で、得をした試しが一度たりともないんだが、開発側にそのような作りにするメリットはあるのだろうか。
疑問。




システム周りはちょいと粗が見えたけれど、総合的にはかなりツボった作品。
上の中ぐらい。
これからは健速の作品を追いかけていく日々が始まりそうだ。